こんにちは、司法書士の廣澤です。
最近、恐ろしいサービスをネットで見つけましたので、注意喚起のために記事を書いています。
認知症不動産専門の買い取りサービス!?
インターネットでびっくりする宣伝をしている事業者がいました。
「司法書士に登記を拒否された方、登記を本人申請で行って弊社で買い取ります。」
この広告の何が恐ろしいのか、簡単にご説明します。
まず、民法には次のように定められています。
第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
よって、司法書士は不動産の取引の際、売主の判断力に問題ありと判断した場合、登記申請を拒否する事があります。認知症の疑いがある方の売買はストップするということです。登記申請以前にその売買契約が無効である可能性があるからです。
シンプルに考えてみても、売ることを理解することができない方の周囲の親族等が同意したからといって不動産売却をすすめてしまうのは、本人から不動産を奪っているのと変わりませんよね。
上記宣伝の趣旨は、意思能力が全くなかったとは言えない状況の時に契約をしたのだとして、手続きを行うという事だと思います。司法書士は医師ではないので、本人の意思能力を正確に診断することなどはできませんからね。方法としては、かかりつけ医師の診断書を取得すること等が考えられますが、実際にすべての事業者がそこまで行っているかは疑問です。
では実際に契約当時、本人の判断力が全くなかったのにもかかわらず、売買をすすめてしまった場合、どうなってしまうでしょうか?
答えは条文どおり、どこまでいっても無効です。もちろん、その登記も無効です。
その他、問題点が多すぎるので、重要なところを箇条書きにしてみました。
1.買取り事業者が継続的に業として登記申請を行うことは、登記手続きは本人申請が許されているので、その傘の下ではグレーですが、以前同様の事業者が逮捕されていたことなどからも、司法書士法違反である可能性が高いといえます。つまり、高確率で犯罪組織です。
2.こういった不動産事業者の買取り価格は、まず間違いなく適正な価格でもないでしょう。売主にとっても関わる事自体がデメリットです。
3.認知症のAさん→買取業者→Bさん→Cさんと不動産が渡ったとしても、認知症Aさんの症状にもよりますが、買取り業者との契約はいつまでも無効なので、利害関係者のどなたかが無効主張した瞬間、あっという間に泥沼化するでしょう。
4.恐らく、Bさん、Cさんが損害賠償請求をする頃には、買取業者は倒産するなどしていると思いますから、不動産を購入する際には、これまで以上に注意しなければならなくなります。こういう事業者が今後増えれば、不動産の登記簿は全く信用できないという事になるでしょう。
5.認知症のAさん→不動産屋が買取り→Cさんに転売後、不動産屋がすぐに倒産、そのタイミングでAさんの親族が契約を無効主張し、不動産屋にはお金を返さず、Cさんだけ住宅ローンだけが残り、不動産もAさんに奪われ泣き寝入りという通謀虚偽表示のスキームを提案する事業者も出てくる可能性があります。
簡単にまとめると、将来にわたってその不動産は訴訟リスクが高い状態が続くという事です。しかも、買主はそれを調べるのが難しいというオマケつきです。
登記は本人申請が原則可能で、かつインターネットが発達していますから、こういう事業者も出てくるのではと思っていましたが、ついに出てきましたね!(昔からいたのかもしれませんが…)
買主が被害にあわないために、考えられる対策
1.不動産を買うときは、登記簿の確認だけでは足りない。徹底的に売主を調べる。
2.不動産買取りを上記手法で行う業者からは、不動産を買わない。
3.士業がダメだといったことを、安易に行わない。
4.売り主に、過去の売主の情報についても説明義務を課すなど特約をつける。
5.過去に不動産の所有権移転登記が本人申請で行われたものかどうかを確認する。
実際には難しいものも含まれますね…。
では、今日はこの辺で。